高松高等裁判所 昭和34年(ラ)54号 決定 1961年3月13日
抗告人 村上栄太郎
相手方 株式会社愛媛相互銀行 外一名
主文
原決定を取り消す
本件競落を許さない
理由
抗告代理人は主文同旨の裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書のとおり主張した。
当裁判所は職権で抗告人本人及び相手方伊藤諭を審尋した。
よつて審究するに、一件記録によれば、別紙目録記載の不動産(土地及び建物)は抗告人の所有に属するものであるところ、相手方銀行より申立外村上金属株式会社に対する土地建物競売申立事件において、右不動産については他の物件と共に、昭和三十三年五月二十二日競売開始決定がなされ、同三十四年六月十七日右不動産につき競落人伊藤諭に対し、代金四十万円(宅地は金十万円、建物は金三十万円)で競落許可決定がなされたこと、右競売期日の公告には競売物件の表示として別紙目録記載のとおり記載せられていて、次のような実測坪数の記載のないことが認められる。ところで当審における抗告人本人の審尋の結果並に抗告人の主張事実を綜合すると、右競売の目的物件中の建物は、同宅地上に建設せられているものであつて、右建物の実態は、木造粘土瓦葺二階建居宅建坪八坪八合七勺、延坪十七坪七合四勺、木造粘土瓦葺平屋建居宅建坪二十一坪三合九勺、木造粘土瓦葺平屋建炊事場風呂場建坪四坪四合五勺、木造粘土瓦葺平屋建便所建坪一坪三合七勺木造セメント瓦葺平屋建倉庫建坪十四坪九合一勺であること、したがつて右建物の実態は前示競売公告に記載せられている建物に比して、その構造が異なり、その実測坪数にも著しい相異があつて、その相異は最低競売価額の算定にも影響を及ぼすものであることが認められる。相手方伊藤諭に対する審尋の結果中右認定に反する部分は採用し難い。それ故本件競売の基本となつている前示競売期日の公告には民事訴訟法第六百五十八条第一号第六号の表示を具備しない違法があるというべきであるから、先ず本件競落許可決定のうち建物に関する部分は違法として取り消し右物件の競落は不許とすべきである。そうして本件建物は前示土地の上に建設せられているものであること前認定のとおりであるところ、およそ土地とその地上の建物とが同一人の所有に属する場合と、それらが各々別人の所有に属する場合とでは、その利用価値や交換価格において、多大の相異があることはいうまでもないことであるばかりでなく、当審における相手方伊藤諭に対する審尋の結果によると、最高価競買申込人である相手方伊藤諭は、本件土地と同地上の本件建物の両物件を共に自己の手に競落されるものと信じて本件競買申出をなしたものであつて、しかも右建物の競落が許されないようなことがあらかじめわかつて居たならば、全部の物件の競買申出をする意思のなかつたものであることが認められるので、右両物件のうち建物の競落が許されないこととなるならば、相手方伊藤諭のした右両物件の競買申出は意思表示の要素に錯誤があるものというべきである。それ故に本件の同時競売においては、前示建物の競売公告の違法は、本件土地の競売、競落等にも重大な影響をもつているものというべきであるから、このような場合には一括競売の場合に準じて、右建物につき競落許可を取り消し、競落を不許とすべき以上、これに伴つて右土地についてもこれが競落許可決定を取り消し、その競落を許すべきではない。
よつて、結局本件土地、建物の全部に関する本件競落許可決定(原決定)を取り消し、本件競落を許さないこととし、主文のように決定する。
(裁判官 渡辺進 橘盛行 山下顕次)
物件目録
西条市氷見字西ノ原乙千七百三十三番地の二
一、宅地 百六坪一合四勺
同所字同乙千七百三十三番地
家屋番号 氷見第三二八番の二
一、木造瓦葺二階建居宅一棟
建坪 二十九坪二合五勺
外二階七坪五合
附属建物第一号
一、木造杉皮葺平家建納屋一棟
建坪 十二坪五合
抗告理由
一、昭和三十三年四月右根抵当債務契約の保証人の一人である西条市氷見町亀井松太郎は債権者愛媛相互銀行西条支店氷見出張所三好所長と共謀の上、債務者(抗告人)村上栄太郎が松山に居住し、氷見町に不在で、担保物件たる不動産(宅地家屋)に居住しないで不在であるのを奇貨としその所有者たる抗告人に無断で、これを西条市氷見町伊藤諭に売却し、代金の授受も終つて右伊藤は右居宅に居住した。この事実を知つた抗告人は同年十一月、松山地方検察庁西条支部に右亀井、伊藤、三好出張所長等を相手どつて告訴状を提出した。
右の事由により債権者は右担保物件の売却(不法の)によつて債権の弁済を受けた筈であり、また今更になつて、一度売却した物件を再び競売すると言うことは、あり得ない筈である。従つて、今回の競落許可決定は当然に取消され、不許可の裁判があるべき筈である。
二、後に示すが如く、現実の建物の種類、形態、建坪数(別紙実測図参照)は今回の強制執行で公示されたそれ等とそごするものである。言わば、公示された物件は、地上に存在しないものである。だから、今回の競落許可決定は、この意味に於ても取消さるべきものである。
右の理由により今回の決定は失当であると思惟せられるから、こゝに民事訴訟法第六八〇条により、これによつて損失を蒙るべき利害関係人から、即時抗告に及ぶのである。
なお、今回の競売の諸手続は村上栄太郎の居所が不明であるとして、公示送達の方法を用いた。
西条市氷見字西ノ原乙千七百三十三番地
家屋番号 氷見第三二八番の二の建物の実測図
(イ) 木造粘土瓦葺二階建居宅 (建坪 八、八七坪・建坪 一七、七四坪
(ロ) 木造粘土瓦葺平屋建居宅 建坪 二一、三九坪
(ハ) 木造粘土瓦葺平屋建(炊事場・風呂場) 建坪 四、四五坪
(ニ) 木造粘土瓦葺平屋建便所 建坪 一、三七坪
(ホ) 木造セメント瓦葺平屋建倉庫 建坪 一四、九一坪
図<省略>